エルフの森

　ホークは、エルフの森で一時の休息を取っていた。
　故郷たる森に帰ってきたのは、何十年振りだろう。
　盟友であり、自分と同様に救世の英雄であるレオン、
スターク、チョモランマ、エヌマ、ポール。
　彼らと出会い始まった冒険の日々。思えば戦いに
つぐ戦いで故郷の森には、ほとんど帰ることができ
なかった。
　以前戻ったときは、騎士としてエルフ王に任命された
時だ。それ以来戻ってきてはいない。
　あの時思い出せるのは、エルフ王の英明さ、若さだった。
ともすれば、永い時を生き停滞しがちなエルフの森を
活力に満ちたものにしていた王の力。それに敬意と畏れを
感じ、緊張していた自分。緊張していた自分に
激動の時がくる、汝の力が私には必要だ、力を貸してくれ
そう告げたエルフ王。
　あの時から、一生が定まったのかもしれない。
　騎士として、エルフとして、男としてあの時、確かに
生まれ変わった。
　それからアーリマン復活、ダイヤモンドナイトの探求、
天空城による人類抹殺計画、サクノス復活、暗黒大陸の探索、
超過去での時間崩壊、超過去でのサクノス退治、
異世界での邪神退治、塔の大戦とさまざま難事を盟友と
共に挑んでいった。
　レオンは、難事のたびに神の使徒として人間離れした超然さ
をもち、スタークは、その繊細な優しい心を傷つけ悔恨する時間が
増えていった。ポールは、旅の間も、その終わりも口を開くことなく
謎のままだった。エヌマは、驚異的な魔法の力を身につけていった。
チョモランマも神への信仰を常に新たにしていき、ついには、
神へとなった。
　あの旅には、全てがあった。苦渋も喜びも、絶望も希望も、
全てがあった。

　そして今旅を終え、故郷たる森に帰ってきた。

　しかし、安寧に浸りつづけることはできない。
　盟友チョモランマに託されたキンスレイヤーの探索や
もしものための計画をこれを果たさなければならない。
　そして、エルフ王の下このエルフの森を守っていかねばならない。

　追憶に身を委ね、エルフの住居特有の木香に浸っていた、
その時、扉をノックし訪ねるものがあった。
　エルフ王の使者だ。
　エルフ王は、ホークに新たな探索を命じるべく召喚状を送ってきたのだ。
　どうやら緊急事態のようで、至急に王の住居に参上するようにとのことだ。
　今まで浸っていた感傷を振り払い、王の下に参上する準備を整えている
間、知らず笑みがこぼれる自分を発見する。
　そう結局ところ、ホークは、冒険が好きなのだ。たとえそれが
生死にかかわるものでも。
　生がある間、ホークは冒険をしつづけるだろう。
　どんな出会い、別れ、喜び、悲しみがあろうと。
　なによりそれが冒険なのだから。
　
　扉を開け、アフラマズタの光を身体に浴びてホークは、一歩外へと踏み出した。

　今また１つの冒険が始まる、ホークのサガが。