エルフ王の居城で

　ホークは、使者に呼ばれエルフ王の居城へ向かう。
居城と言っても人間達の言う城とは、まるで趣が違う。
　まず材質が木材と言うよりは、樹木でできている、
そのため建物と言うよりは、密集した大木でできた
密林のようだ。
　何も知らない外部からの侵入者は、これがエルフ王の
居城だとは、分かるまい。
　ホークは、この多種族からは、奇異にも見えるこの城が
好きだ。逆に石や死んだ樹木で建てた建築物は、
どうしても好きになれない。
　やはり、生命の息吹を感じられないからだろう。
　石の城は、防御力こそ高いだろうがどうしても居住性は
低い。石の城は、外部からの侵略者に対してだけでなく、
内部に住むものさえ圧迫しているようだ。
　その点この樹木の城は、内部に住むエルフやその同盟者
たる動物達に恵みを与えてくれる。
　その実や葉、樹液は、食料にも武器にも加工できるし、
また樹木の生きた壁は、暑さ、寒さといった環境の変化から
内部にいるものを守ってくれる。
　このエルフ王の居城という生命が我々エルフの、動物達の
生命を優しく抱いていてくれる。そうした母にもにた安心感
を与えてくれるこの城は、塔の大戦の時、激烈な猛攻にあった
そうだが、この通り持ちこたえている。
　子が母を守ろうと、母が子を守ろうとする。この親子に
存在する暖かな愛情がこの城とエルフ族の間には
流れているような気がする。
そしておそらくそれが、塔の大戦でこの城が落ちなかった
理由なのだろう。

　ホークは、懐かしく辺りを見回しつつ入り口である
隠れたうろに向かう。
　途中警備の任についている若者がホークを観て、
親しげな、そして誇らしげな笑顔見せて会釈を送ってくる。
どうやらホークがエルフの森を出た時には、まだ
年端も行かなかった子供だった若者も英雄たるホークの
ことは、知っているようだ。
　何故、自分の顔を知っているのかとホークは、首を振りつつ
彼らの脇を通りすぎて城の内に入っていった。

　城内は、よく光を取り入れる造りに加え、
エルフの至宝たる生命の樹が生み出す光のため
とても明るいものだった。
　入ってすぐに案内をかってでた少年の鮮やかな金髪が
光を弾いて舞っている。
　彼は、何が楽しいのか足取りも軽く跳ねるように進んでいるのだ。
　あまりに楽しそうなので、理由を聴くとホークに会えて
嬉しい、とても名誉に思っていると告げてくる。
　どうも城に来てから気恥ずかしいことばかりだと
ホークは、思う。
　ホークの中では、自分は、あくまで一介の騎士であり、
英雄や聖者といったようなものとは、違うのだ。
もし自分が英雄であるとしたら、故郷を守り抜いた
彼らも正に英雄であろうとも思う。

　過去に見た覚えのある王の間に近づくとやっと、
一息ついた。エルフ王なら今まで会った彼らのように
自分を特別扱いは、しないだろう。

　エルフ王は、王の間に一人立ち、天井から降ってくる
光を見上げていた。
　あの若かった王は、外見こそ変わってはいないようだが
内に秘めるものは、より深みを増し強い意思と力を
感じさせるようになっていた。
　エルフ王は、光からホークに顔を向け言う。
「お帰り、友よ」
　ホークは、変わらないと思った。
　ホークを信頼し、一変のためらいも疑心もなく心を預けて
くるこの王は、昔のままだ。
　ホークは、王に使える騎士として片膝を付き挨拶を
しようとしたが王は、それを遮り
「ホーク、今は私達以外誰もいない。そのような挨拶は、
抜きにしよう。それより語ってくれ君の物語を」
　エルフ王は、ホークの語る冒険をときに質問をし、
ときに感心し聴いた。
　ホークは、冒険を語りながら考えた。
エルフ王は、こうした私的な話だけでこの王の間の
ような公的な部屋を使うかたではない。
　きっと何かあるだろう。
　ホークは、語り終えエルフ王の言葉を待った。
「ホーク、君は偉大な経験をしてきたのだね」
　エルフ王は、言葉を切り少し考えているようだった。
　数ラウンド後、エルフ王は、
「やはり君をおいて適任者はいないようだね。
　君の冒険を聴いて確信したよ。実は、君に
頼みたいことがあるのだよ。
　まず1つは、このエルフの森のはずれに突如出現した
建物の正体を確認し、それが森や森に住むもの
たちを脅かすものならば排除すること。
　もう1つは、君と一緒に同行する者達の中から
次代のエルフ王に相応しいものを推薦すること」
　ホークは、狼狽した。一つ目は、冒険者として長く
経験を積んでいる自分にとって難しいことではなく
また相応しいものとして受けとめている。
　しかし、二つ目は、自分の判断できることではないと
思う。
　戸惑うホークにエルフ王は、言葉を次いで言った。
「辞退しないで欲しい。次代のエルフ王を決める
ということは、君にとって負担かもしれないが
　私は、君の意見を聴きたいのだ。
　君は、このエルフの森に住むどんなエルフよりも
外界で経験してきた。その経験を生かして欲しい。
　次代のエルフの王は、今までとは違った何かを
必要とされるように私は、思うのだ。
　私は、長年エルフ王として君臨してきた。
　ある意味君に負けないほどの多くの経験をしてきた。
しかし、よくも悪くも私は、エルフの中のエルフであり
エルフであるという限界を超えてはいない。
　そこで君に選んで欲しいのだ。
　私が漠然と感じる激動の未来においてエルフを
導くことのできる次代のエルフ王を」
　ホークは、辞退の言葉が喉まで出掛かったが
エルフ王の堅い決心をその瞳に見て口には、
ださなかった。
　そして思い出した汝の力が私には必要だ、力を貸してくれ
と言った若き日のエルフ王を。
　そしてあの時の決心、騎士にこのエルフ王に
仕える騎士になることへの決意を思い出した。
　ホークは、正式な騎士の礼をして答えた。
「しかと承りました、わが王よ」
　エルフ王は、ホークの想いを受け大きく頷き
「ありがとう。では君と一緒に旅立つもの達を紹介
しよう」
　そして控えの間にいる若者達を呼び入れた。